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最近はFacebookなどのSNSが普及したおかげで、「牛乳はからだに悪い」といった投稿を多くみられるようになりました。私は牛乳を飲まなくなって25年ほど経ちますが、止めた当時の「牛乳神話」を振り返ると、昨今、牛乳の弊害が一般の方にまで広く浸透していることに驚いています。治療家としては、どうして牛乳は体によくないのかを説明する手間が省けて助かることもあります。関心のある方々には、牛乳の弊害について分かりやすく書かれた、杏林予防医学研究所発行の「予防ニュース」から、以下ご紹介させていただきます。

牛乳(2)牛乳と病気

食品と個人的要因

 

第二次世界大戦後、米国農務省(USDA)は、穀物、果物、野菜、肉、魚、豆類、乳製品、植物油、菓子類、スナック類、アルコール、調味料などの食品を適切な割合でとるための指針として食品ピラミッドを作成しました。

 

このピラミッドを目安にすることにより、カロリー、食物繊維、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、脂肪酸など栄養素を、何かの食品に偏らずに適量とることができるようになります。

 

食品ピラミッドの最下部に位置するのは、「個人の遺伝子設計図」です。この言葉は、食事からとられる食品の量は、遺伝子的な要因によって改める必要があるかも知れないということを示しています。

 

つまりAという食品ぬBという栄養素が豊富に含まれていたとしても、それを食べるCに栄養素を分解・吸収する力が弱いと、CはAに含まれているBを利用することができません。

 

食品に含まれている栄養素がすべて利用されるということはむしろ少なく、野菜に含まれているカルシウムの吸収率は20%くらいですし、海藻に含まれている鉄は2~3%しか吸収されません。しかし、栄養素が吸収されないだけなら問題は少ないのですが、体に負担をかける要因が食べ物に存在することで食べた人の体調を崩させたり、また何かの病気を悪化させたりする可能性があります。

 

カルシウムを摂取するために牛乳をとっているのに、乳糖耐症の問題があって反対に多量のカルシウムが排泄されてしまうということが、先月号のテーマでした。

 

それが毎日続く結果、骨中のカルシウムは逆に少なくなり、骨粗鬆症が進行して、腰痛や簡単な打撲による骨折が引き起こされることになります。

 

白人にはカルシウム源として牛乳が必要であっても、日本人の多くは遺伝的に乳糖不耐症であるため、牛乳中の栄養成分をうまく利用することができません。日本人にも個人差があり、症状が強く出る人がいる一方で、ほとんど自覚されない人もいます。

 

けれど、知らず知らずのうちに体の代謝の働きを狂わせている可能性があり、とりわけ何かの不調ある人がカルシウム源として牛乳に依存することは望ましくないといえるのです。

 

アレルギーと牛乳

 

牛乳によって起こるトラブルとして、牛乳アレルギーが知られています。ここ10年か20年のうちにアトピー性皮膚炎の患者が以前とは比較にならないほど増えており、保育園児がおこしている食物アレルギーの約13%は、卵と牛乳によるものです。

 

厚生省が、園児1336人の保護者を対象にして、「特定のものを食べて1時間以内に皮膚に変化が起こったり、体調が悪くなったりしたこはないか」というアンケートをとったところ、次の結果が得られました。

 

「かゆみやじんましんが出た」「下痢」などの症状が起こると回答した人→168人

 

症状をおこした食べ物

1、卵      -93人

2、牛乳     -40人

3、魚類     -23人

4、チョコレート -14人

5、大豆、ピーナッツ-9人 

 

不耐症とアレルギーの違いは、前者が食品中の成分を効果的に代謝できないことで起こるのに対して、後者では食品中の成分(おもにタンパク質)に対する免疫反応として起こることにあります。

 

生物それぞれが持つタンパク質は固有であり、ヒトのタンパク質を他の生物がもつことはなく、そのタンパク質が血液中に入ってきたときに、免疫はそれを他者として排除しようとします。

 

生物の免疫は、自己に対して「寛容」であるのに他者に対して「不寛容」です。例えば、臓器移植の時に起こる「拒絶反応」は不寛容の結果です。

 

免疫が不寛容であるのは、最近やウイルスなどの異物を処理するために必要な体の防衛機構です。しかし、比較的無害な成分に対して免疫が激しい攻撃を起こすため、炎症(皮膚炎、鼻炎、結膜炎など)やくしゃみ、せきなどの症状が起こり、自己の組織までもが傷を受けてしまうのです。

 

幼少時は成長のためにタンパク質を一目にとらなければならないと考えられていますが、子供の消化器官は成長過程にあり、高分子のタンパク質を簡単に消化(アミノ酸に分解)することができません。そして、小腸の腸壁から高分子のタンパク質を容易に通り抜けさせてしまうため、食物アレルギーによるアトピー性皮膚炎などアレルギー性疾患が発症します。 

 

「食物アレルギー(上野川修一著:講談社刊)」によると、アレルゲンになる食品の条件として表2に記されてあることがあります。卵についてはいずれこのコーナーで特集しますが、卵(鶏卵)の次にその条件に当てはまる点が多いのが牛乳です。

 

アレルギー患者には乳製品排除が必要

 

牛乳の成分中、タンパク質は約3%を占め、牛乳を200ml飲むと、約6gのタンパク質が摂取されます。牛乳中のタンパク質は1種類ではなく、5種類のカゼインと乳清タンパク質から成り立ちます。牛乳タンパク質中、カゼインは全体の約8割、乳清タンパク質は約2割です。

 

そのように牛乳中には10種類のタンパク質が含まれますが、最近の研究で牛乳アレルギー患者の82%がβ-ラクトグロブリンに、43%がカゼインに対してアレルゲン活性が高いことがわかりました。

 

β-ラクトグロブリンのアレルゲン活性が高い理由として、このタンパク質がヒトの母乳中にまったく含まれておらず、人間の体内ではそれだけβ-ラクトグロブリンへの抗体が作られやすくなっている可能性があります。

 

アトピー性皮膚炎の患者のアレルゲンの割り出しには、IGE抗体の数値がパッチテストで調べられます。また札幌市うしろぎクリニックの後木健一氏によると、食物アレルギーが牛乳、卵、大豆と異なるにしたがって、皮疹の症状にも違いが出てきているとのことです。

 

アトピー性皮膚炎の改善法として、除去食が上げられます。牛乳アレルギーであれば、牛乳や牛乳飲料(コーヒー牛乳など)を含めて、ヨーグルトなど乳製品、ポタージュ、グラタン、チョコレート、缶コーー、アイスクリーム、また牛乳やバターを生地に練り込んだパンやクッキーなど、乳タンパク質が含まれた食品はことごとく制限を受けます。

 

除去食を続けた上で、食事を穀物・野菜・青魚中心にし、抗酸化ビタミン(ベータカロチン、ビタミンC、Eなど)を加えてアトピー患者に改善の効果を上げているという研究が鹿児島大学で行われています。

 

何かのアレルギーがある人で、かなり多量の牛乳や乳製品を消費している例が多く、何をやってもアレルギーに効果が無いという大人も含めて、一度、牛乳を絶つことを試す価値が十分にあると思われます。

 

高脂血症と牛乳

 

アレルギーほどではないものの、近年、子供に高脂血症が増えています。子供が高脂血症のような生活習慣病にかかる原因は欧米風の食生活を続けることにあり、和食中心の食事では考えられないことです。

 

牛乳200mlには約3グラムの脂肪が含まれ、そのほとんどは飽和脂肪酸です。飽和脂肪酸を摂り過ぎると体内でコレステロールが作られていき、牛乳を多少飲むだけで高脂血症になるわけではないにしても、一日に500ml、あるいは1リットルと飲みつづけていくと、血液中のコレステロール値を高めていく可能性が十分にあります。

 

また牛乳を飲むときに、高脂肪食を選択することがコレステロール値を高くします。つまり、ご飯に味噌汁などの和食に牛乳を併せて飲む人は少ないでしょうが、パンやベーコン、クッキーなどの洋食には牛乳が合います。またホテルの朝食で洋食を選ぶと、牛乳以外にもヨーグルトやチーズなど乳製品をフルコースでとるメニューになります。

 

ご飯を焚いたり、味噌汁を作ったりするのに比べて、洋食風の献立は実に簡単に作れます。パンはトースターで焼くだけ、牛乳はコップに注ぐだけ、チーズは切るだけ、卵やベーコンを炒めるだけ…

 

旅行などで一年に数回、そういう朝食を楽しむのならまだしも、毎日になると脂肪、タンパク質、リンの摂り過ぎになり、コレステロール以外にもさまざまな問題が生じて来ることになります。

 

白内障と牛乳

 

乳糖(ラクトース)が分解されると、ブドウ糖とガラクトースになります。ブドウ糖はエネルギーに変わりますが、ガラクトースを分解する酵素(ガラクトキナーゼ)の分泌が弱いとガラクトースが目の水晶体に集まって白内障が発症する可能性があります。

 

白内障は、水晶体の透明度が低下して、視力に障害が起こり、失明に関係する可能性を持った病気です。白内障の原因は目の老化で起こるというのが一般的な認識でしたが、糖尿病の影響、紫外線などによるフリーラジカルの暴露、カルシウムのアンバランス、ガラクトースの代謝不全、ビタミンB2欠乏によって若い人にも起こります。

 

先天性ガラクトキナーゼ欠損といい、ガラクトース分解酵素が遺伝的に作れない乳児に白内障が起こることが70年に確かめられています。乳糖不耐症と同じく、ガラクトースの代謝も人によって差がありますが、牛乳がいいと信じて一日に1リットルも飲むことを続けていると白内障の発症するリスクが高くなります。

 

またビタミンB2(リボフラビン)は、ガラクトースの代謝のために消耗されます。B2が不足することで、白内障の発症する確率がいっそう増すことになります。

 

牛乳の汚染

 

またこの連載で「肉」をテーマにしたときにも述べたように、牛乳の生産者である牛そのものが病的な状態で育てられています。本来15歳の寿命がある牛が、日本では6歳で死んでしまうのです。

 

日本の牛は半分以上が乳房炎にかかっているといわれており、乳房炎やそのほかの病気の予防のために抗生物質が使われています。牛乳に抗生物質が残留するだけではなくて、抗生物質に強い耐性を示すサルモネア菌や大腸菌O-157など食中毒が生まれるきっかけになりました。

 

また成長ホルモンが混入した酪農製品によって幼児に初潮が起こる事件がプエルトリコで報告されています。

 

ダイオキシンによる暴露は、母乳中の量を検査することによって調べられます。その理由は、母体優先の法則といい母体には体内の汚染物質(重金属や化学物質)を乳汁中に濃縮して排泄する働きがあることによります。牛も同じく、体内の不要な有害物を乳汁から排泄している疑いもあります。

 

戦後、日本で増えてきている大腸ガンの発症には、飽和脂肪酸の摂り過ぎ、食物繊維の不足が関係しています。食事を洋風にさせ、脂肪の摂り過ぎ、また乳糖や汚染物質の代謝のために腸に負担をかける牛乳が大腸ガンの増加に一役買っているかもしれません。

 

国立がんセンターの市川名誉院長は、学校給食で育った世代から乳製品と肉による脂肪の摂り過ぎと食物繊維の不足が目立ち始め、大腸ガンが増えていると警告されています。

 

このように牛乳には、いろいろと問題点があります。繰り返しになりますが、体調が悪い方は一度「牛乳絶ち」をしてみて、以前に比べてどれだけ体調が変わるか、比較されてみてはいかがでしょうか。

Nutrition 栄養のお話

 

- contents -

●はじめに 
●1億総半病人時代、そして誰もに訪れる「生活習慣病」 
1.ビタミン・ミネラルの働きこそが生命の本質
2.病院の検査で「異常」が見つからなければ「正常」!? 
3.栄養素は食事で摂れる、摂れない!?
●アメリカ合衆国政府が「現代病は食生活の間違いで起こる“食源病”である」と断定 


●私のインフルエンザ観 
1.はじめに 
2.「インフルエンザウイルスVS体内の免疫力」ー たとえれば戦争みたいなもの 
3.まず、敵であるウイルスの性質を良く知ろう。感染症であることをお忘れなく 
4.免疫システム第一段階~第二段階 免疫細胞が大活躍 
5.免疫システムを強化する一騎当千の戦士達(1)
6.迎え撃つ身体軍の一騎当千の戦士達(2)「ビタミンACE」 
7.迎え撃つ身体軍の一騎当千の戦士達(3)「フリーラジカル・ターミネーター」 
8.腸内細菌叢の正常なバランスを維持する 


●鳥インフルエンザはSARS以上の脅威 ~からだの免疫力は温存したい~ 


●牛乳(1)カルシウム源としての牛乳
●牛乳(2)牛乳と病気
●牛乳(3)加工乳と乳飲料


●杏林二十一の会 分子栄養学の研修会 (当院スタッフによる研修会参加レポート) 
京都南カイロプラクティック研究所から杏林予防医学研究所は徒歩5分のご近所さんです。地の利を生かしてという訳ではないのですが、当院スタッフは分子栄養学の研修会へ積極的に出席しています。 勉強した内容が思い出に変わらないように、患者さんへのアドバイスに生かせますようにと、レポートを書いてもらうことにしました。


第11回杏林21の会 「受験に勝つための食事学」  
第12回杏林21の会 「LGS リーキーガット・シンドロームと腸の健康」 
第14回杏林21の会 「現代医療を考える(2)」  
第17回杏林21の会 「ビタミンCと解毒」 
第18回杏林21の会 「含流アミノ酸と解毒」 
第19回杏林21の会 「有害物質の氾濫と解毒の重要性」
第20回杏林21の会 「あなたの子供を成功に導くCHQの法則ー生命の基礎となるリン脂質」 
第25回杏林21の会 「ファスティング ビフォケアとアフタートリートメント」
第27回杏林21の会 細胞から元気になる食事~あなたを「生かす食事」「殺す食事」 
第28回杏林21の会 細胞から元気になる食事 (2)  
第30回杏林21の会 レシチン 「水と油をつなぐコーディネーター」   
第35回杏林21の会 油を変えれば人生が変わる「トランス脂肪酸の問題 第2弾」 
第42回杏林21の会 肝臓をよくする20のプログラム

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