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最近はFacebookなどのSNSが普及したおかげで、「牛乳はからだに悪い」といった投稿を多くみられるようになりました。私は牛乳を飲まなくなって25年ほど経ちますが、止めた当時の「牛乳神話」を振り返ると、昨今、牛乳の弊害が一般の方にまで広く浸透していることに驚いています。治療家としては、どうして牛乳は体によくないのかを説明する手間が省けて助かることもあります。関心のある方々には、牛乳の弊害について分かりやすく書かれた、杏林予防医学研究所発行の「予防ニュース」から、以下ご紹介させていただきます。

牛乳(1)カルシウム源としての牛乳

 

 

牛乳は完全食品?

 

牛乳、というとタンパク質やカルシウムに富み、急いでいるときにはそれ一本で朝食代わりに出来る優良食品というイメージがあります。

 

「牛乳はいかなる食品より人間栄養に役立つ、それは質のよいタンパク質とカルシウム、ビタミンA、Bが豊富にあり、安価である(アメリカ農務省)」「人間の環境を支配するもののうち食べ物は最も重要であり、そのうちで牛乳ほど重要なものはない(アメリカ公衆衛生局)」と牛乳を支持する公的な声明が発表され、戦後の日本人の栄養状態を改善する優良食品として、現在に至るまで牛乳を飲むことが奨められてきたのです。

 

1935年に乳製品がとられていた量は、一日当たりにして8.7グラムに過ぎませんでした。平均した結果なので、牛乳屋さんに毎朝の配達を頼める裕福な人は一日に牛乳1本飲んでいたかもしれませんが、一生を通じて牛乳を口にすることがないという人が多数派だったと思います。

 

戦後になり、1955年の乳製品の摂取量は60.9グラムと、牛乳をコップに約半分くらいの量になりました。そして、その30年後、現在に近い1994年の一日当たりの乳製品摂取量は244.3グラムに達しています。

 

乳製品の摂取量が増えるとともに、日本人のカルシウム摂取量も増えていくことになりました。1961年に一日当たりカルシウムが300mgとられていたのが、62年に400mg/日を超え、67年には500mg/日を超えるに至ったのです。

 

牛乳主体の学校給食

 

乳製品が最も積極的に取り入れられたのが、学校給食です。毎日、牛乳が必ずつき、またチーズやヨーグルトがメニューになることしばしばです。

 

学校給食では、文部省が決めた「学校給食実施基準」によって、児童一人一回当たりの平均栄養所要量が決められています。例えば、6-7歳の児童の一回の給食でのカロリーの所要量は590kcalです。200mlの牛乳の熱量は121kcalで、所要量全体の20.6%をとることができます。

 

また200mlの牛乳から、タンパク質6グラム(20.3%)、カルシウム206mg(85.8%)、鉄0.2mg(6.7%)、ビタミンA226IU(37.8%)をとることができます。(ビタミンCは0%)

 

基準の栄養所要量を満たすために、休職の献立が乳製品主体に組まれているといっても過言ではありません。牛乳それだけとって、残り-タンパク質の72%やカルシウムの14%-を他の主食と副食で補い、それでもカルシウムが足りない場合はチーズ一本足しておこうという考え方です。ご飯やパン、野菜、肉などは付録のような扱いであり、宮崎大学教授の島田彰夫氏は「こんな考え方で、まともな食事が作れるのでしょうか(「食べもの文化」誌1995年5月号より)」と、厳しく批判されています。

 

牛乳のカルシウムがミネラルの吸収を阻害

 

牛乳を飲むことでカルシウムの摂取量が上がることは事実です。しかし、200mlの牛乳からは、鉄は基準の6.7%しかとることができません。はたして、他の食品から鉄をとることができるのでしょうか。

 

離乳期を過ぎた幼児が牛乳を飲み過ぎると「牛乳貧血」という鉄分欠性の貧血になることが、10年くらい前から報告されています。これは、牛乳に多く含まれるリン酸塩が鉄に化合し、吸収し難いリン酸鉄に変化させることによります。

 

近年、報告されている子供の異変に、朝礼の時の「立ちくらみ」が指摘されています。その理由として、自律神経の調整がうまくいかなくなっていることに加えて、貧血も考えられると思われます。発育期の子供には一日に6~8mgの鉄が必要であり、牛乳の飲み過ぎで鉄不足になり、貧血になっては何もなりません。

 

一日に1リットルの牛乳を飲む、あるいは飲まされている子供が多いといわれています。そのような飲み方では、鉄以外にも多くの栄養素-特にミネラル-の代謝が影響を受けます。カルシウムが多量にとられ、マグネシウムが不足すると満願の吸収率が低下します。またカルシウムの摂り過ぎにより、骨から他のミネラルの排出が促進され、骨の成長阻害や各臓器での微量成分のアンバランスが引き起こされていることが確かめられています。

 

離乳期以後のミルクは自然の摂理に反する

 

牛乳100グラムには、約100mgのカルシウムが含まれます。鉄骨牛乳などカルシウム強化牛乳にはさらに多くのカルシウムが含まれます。カルシウム栄養所要量は一日当たり600mgですから、牛乳協会は一日3本の牛乳をとPRします。

 

そこで子供や骨粗鬆症を予防したい女性が牛乳を飲むわけですが、牛乳や乳製品の摂取量が増えているのに、現実には骨折や骨粗鬆症が増えている背景には、牛乳に含まれているカルシウムの吸収に問題があります。

 

カルシウムは自然界には単体として存在せず、魚屋動物の骨ではリン酸カルシウム、野菜の組織では蓚酸カルシウム、そして牛乳など乳製品中ではカゼインというタンパク質と結合したカゼインカルシウムという化合物として存在します。

 

摂取されたカルシウムは、胃酸や消化酵素の作用によって結合を解かれ、カルシウムイオンになります。そして、タンパク質に運ばれ、十二指腸から吸収されます。吸収されたカルシウムの99%は骨や歯の材料になり、残りの1%は血漿中で神経伝達などの働きに関与します。

 

リン酸カルシウムや蓚酸カルシウムは分離しにくいため、吸収率は10~20%くらいです。カゼインカルシウムの吸収率は50%前後と高く、牛乳のカルシウムの吸収が優れていることを証明しているようですが、実際に人間にできるかということはまた別の話であるのです。

 

ヒトを含めてすべての哺乳動物は、出生後、母乳から栄養を得ます。しかし、母乳には乳糖(ラクトース)含まれ、それを分解・処理しなければ、母乳に含まれる栄養素を効果的に吸収することができまん。

 

 乳糖は、グルコース(ブドウ糖)とガラクトースという二種類の糖が結合した分子で、それが分解されるとグルコースがエネルギー源として利用されます。

 

乳糖を分解する酵素をラクターゼといい、出生時から離乳期にかけてはその酵素の活性が高い状態にあります。しかし、離乳期を超えるとその活性は次第に低くなり、やがてラクターゼはまったく分泌されなくなってしまいます。

 

ヒトの離乳期以後、ラクターゼの活性が低くなるのに対して、アミラーゼという酵素の活性が高くなっていきます。アミラーゼはでんぷん分解酵素であり、この代謝の変化は「もうミルクからではなく、ご飯から栄養をとりなさい」ということを意味しています。

 

その自然の摂理を無視して、牛乳を飲んだらどうなるでしょうか。乳糖は分解されないため消化吸収されず、腸に留まり、浸透圧の作用によって腸壁から水分を引き出します。このとき腸が膨満して、また蠕道運動が強くなり、水様性の下痢、腹痛、お腹が張る、腹部の不快感、吐き気、嘔吐などの症状が起こります。

 

乳糖を処理出来ない為に起こる症状の発現を乳糖不耐症といい、同時にカルシウムの排泄が促進されます。摂取されるカルシウムよりも排泄される量が多くなり、体内のカルシウム量は以前よりも少なくなってしまうのです。

 

人類と乳糖不耐症

 

同じヒトでも、離乳期以後にラクターゼを活性でき、乳糖不耐症が起こらない人種もあります。

 

乳糖不耐症の出現率は、タイ人がほぼ100%、中国人が約90%、アフリカのガンダ族が約80%、米国黒人が70%強と、極東に住む黄色人種と黒色人種に高く出ており、世界人口の約90%を占めます。

 

一方、乳糖不耐症の出現率が少ない人種は、アフリカのフラニ族が20%、米国白人が18%、スウェーデン人が数%と、アフリカの一部の地域の部族と北欧系の白色人種に限られています。

 

酵素が作られる過程には、遺伝子に組まれている情報が関与しています。ラクターゼを活性できる人種は数千年という長い年月を牧畜を主として食物を取り入れてきた結果、成長後もラクターゼを作る遺伝情報を発現することができます。日本人が牛乳を飲み始めるようになってまだ40年も経っておらず、牛乳を飲むに適した体質を得るにはほど遠いわけなのです。

 

モンゴルや中央アジア、中近東の牧畜民族は遊牧の歴史が新しく、ラクターゼの活性は見られません。しかし、彼らは乳酸菌によって乳糖を処理し、ヨーグルトなどの発酵食品にする工夫によって、牛や山羊のミルク中の成分を効果的に利用しています。乳糖不耐症が多い私達日本人も牛乳よりもヨーグルトを食べるべきですが、ヨーグルトやチーズ、バターなど乳製品については来来月号のテーマにさせていただきます。

 

ミルク過多民族程、骨折が多い

 

北欧の人々は牛乳中の成分を効果的に吸収していますが、彼らにしても牛乳を多飲することがベストではないということが現実です。

 

骨粗鬆症などによる老人の骨折率は、-近年、増えてきたといっても、日本などアジア諸国は低く、北欧やアメリカはその4~6倍も多くなります。それには次の理由が考えられます。

 

カルシウムに対するマグネシウムの不足

 

マグネシウムは、カルシウムが骨や歯に沈着するのを助けます。白人が主食にする、牛乳や肉、卵など動物性食品には、マグネシウムはあまり含まれていません。日本人のマグネシウム摂取量は以前よりは残っていますが、豆や豆加工品を食べる習慣がある人には割合ととられています。

 

活性型ビタミンDの不足

 

ビタミンDは、カルシウムの骨への取り込みを促進するのに必要です。ビタミンDは干ししいたけや魚の脂身に含まれますが、やはり欧米ではそれらの食品をとる機会が少なくなります。

 

日光に当たると、紫外線の作用によって皮膚表面のコレステロールがビタミンDに変化します。北欧やイギリスなどではミルクを十分に飲むのに日射量の少ないことからビタミンD不足になり、子供がくる病(骨が軟らかくなり、変形する病気)になることがしばしばありました。アメリカでは「合成ビタミンDテンか牛乳」が作られていますが、合成ビタミンDには、マグネシウム欠乏下においてカルシウムの過呼吸を引き起こし、腎臓結石や動脈硬化を促進するという問題があります。またビタミンAとKもまた、骨の形成に必要です。ビタミンKが豊富な納豆を食べる東京の女性と、ミルクをよく飲むロンドンの女性の骨密度が比較されたことがありましたが、東京の女性の方が骨密度が高いという結果が得られました。

 

リンの過剰

 

リンはカルシウムと結合し、リン酸カルシウムとして骨組織の主要な構成物となります。しかしながらリンをとり過ぎると血液が酸性に傾き、その中和のためにカルシウムの排泄が促進されます。カルシウムとリンの理想摂取比は1:1です。牛乳などの乳製品や骨ごと食べる小魚のカルシウム:リン比は1:1ですが、欧米食では牛乳に加えて、多量の肉や卵など高リン食を食べるため、リンの過剰摂取になります。またほとんどの加工食品には添加物として、リン酸が含まれています。

 

タンパク質の過剰

 

リンと同じく、過剰なタンパク質もまた血液を酸性に傾かせ、カルシウムを排泄させます。肉中心の食事により、リンとタンパク質の両方が過剰に摂取されます。

 

砂糖の過剰

 

砂糖もやはり、血液を酸性に傾かせます。ビタミンB1が不足すると乳酸が発生し、その度合いはさらに強くなります。

 

脂肪がカルシウム吸収を妨げるメカニズム

 

脂肪の過剰

 

最後の問題は、牛乳が高脂肪食であることです。一昨年に、正しい食生活関する情報を啓蒙するアメリカの民間団体Center for Science in the Public Interest(CSPI)は、「全乳をコップ一杯飲むと、ベーコン5枚分の飽和脂肪が摂取される」という警鐘をテレビのスポット広告で流しました。

 

飽和脂肪の過剰摂取は肥満の原因になるだけではなく、血液中のコレステロールを上げ、大腸ガンや乳ガンの引き金になるなど多くの病気に関係します。またそれだけではなく、脂肪の摂り過ぎによってカルシウムの吸収が阻害されます。

 

象徴の上皮の表面には、酸性の層があります。そこに食品からとられたカルシウム化合物が入って来ると、そこで解離してカルシウムイオンになり、小腸からされます。

 

ところが、この酸性層に脂肪酸が入って来ると脂肪酸とカルシウムが結合して、不溶性のカルシウム塩を作ります。脂肪酸と結合したカルシウムはほとんど溶けることができず、すべて便から出ていってしまいます。(静岡県立大学学長・星猛氏の説)

 

近年、日本でもポピュラーな欧米型の朝食-パンにバターを塗り、それを牛乳で流し込むと、カルシウムの吸収が激減します。反対に、シリアルと牛乳の組み合わせではカルシウムの吸収率は高まります。

- contents -

Nutrition 栄養のお話

 

●はじめに 
●1億総半病人時代、そして誰もに訪れる「生活習慣病」 
1.ビタミン・ミネラルの働きこそが生命の本質
2.病院の検査で「異常」が見つからなければ「正常」!? 
3.栄養素は食事で摂れる、摂れない!?
●アメリカ合衆国政府が「現代病は食生活の間違いで起こる“食源病”である」と断定 


●私のインフルエンザ観 
1.はじめに 
2.「インフルエンザウイルスVS体内の免疫力」ー たとえれば戦争みたいなもの 
3.まず、敵であるウイルスの性質を良く知ろう。感染症であることをお忘れなく 
4.免疫システム第一段階~第二段階 免疫細胞が大活躍 
5.免疫システムを強化する一騎当千の戦士達(1)
6.迎え撃つ身体軍の一騎当千の戦士達(2)「ビタミンACE」 
7.迎え撃つ身体軍の一騎当千の戦士達(3)「フリーラジカル・ターミネーター」 
8.腸内細菌叢の正常なバランスを維持する 


●鳥インフルエンザはSARS以上の脅威 ~からだの免疫力は温存したい~ 


●牛乳(1)カルシウム源としての牛乳
●牛乳(2)牛乳と病気
●牛乳(3)加工乳と乳飲料


●杏林二十一の会 分子栄養学の研修会 (当院スタッフによる研修会参加レポート) 
京都南カイロプラクティック研究所から杏林予防医学研究所は徒歩5分のご近所さんです。地の利を生かしてという訳ではないのですが、当院スタッフは分子栄養学の研修会へ積極的に出席しています。 勉強した内容が思い出に変わらないように、患者さんへのアドバイスに生かせますようにと、レポートを書いてもらうことにしました。


第11回杏林21の会 「受験に勝つための食事学」  
第12回杏林21の会 「LGS リーキーガット・シンドロームと腸の健康」 
第14回杏林21の会 「現代医療を考える(2)」  
第17回杏林21の会 「ビタミンCと解毒」 
第18回杏林21の会 「含流アミノ酸と解毒」 
第19回杏林21の会 「有害物質の氾濫と解毒の重要性」
第20回杏林21の会 「あなたの子供を成功に導くCHQの法則ー生命の基礎となるリン脂質」 
第25回杏林21の会 「ファスティング ビフォケアとアフタートリートメント」
第27回杏林21の会 細胞から元気になる食事~あなたを「生かす食事」「殺す食事」 
第28回杏林21の会 細胞から元気になる食事 (2)  
第30回杏林21の会 レシチン 「水と油をつなぐコーディネーター」   
第35回杏林21の会 油を変えれば人生が変わる「トランス脂肪酸の問題 第2弾」 
第42回杏林21の会 肝臓をよくする20のプログラム

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